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2005年08月04日

ミトコンドリア・イヴの持つ歴史上のもう1つの意味

ヒトは60兆個にのぼる細胞から出来ていることはよく知られています。その細胞の中には数百から数千個のミトコンドリアというエネルギーを生産する器官が入っています。

ミトコンドリアには、細胞核内の染色体にあるDNAとは違うDNAがあって、ミトコンドリアDNAと呼ばれています。

ミトコンドリアDNAには不思議な性質があって、精子が卵子に到達して受精した後に、卵子内の精子に含まれていたミトコンドリアDNAが排除される仕組みになっています。

その結果、受精した卵子には女性から受け継いだミトコンドリアDNAだけが残ります。

ミトコンドリアDNAは環状で全塩基の数も16,500対余りと少なく、世代を経るにつれて変化が速いのと、その変化する割合がわかっています。

女性からしか引き継がれないため、父親のDNAが混じらないということで、人類の祖先を辿っていくのに適した遺伝子なのです。

1987年、アメリカのアラン・ウィルソンを中心とする科学者が、アフリカ人・オーストラリア人・アジア人・ヨーロッパ人・ニューギニア人それぞれ147人からミトコンドリアDNAのサンプルを採取して家系図を作ったところ、アフリカ人から他の人種が枝分かれしていることがわかりました。

アダムとイブそして、現在の人類の祖先として、14~29万年前にアフリカに住んでいた一人の女性に行き着いたのです。

彼女は聖書のアダムとイヴにちなんで「ミトコンドリア・イヴ」と名付けられました。

しかし、男と女が揃わないと子孫は生まれません。イヴの相手の「アダム」はどこにいたのでしょうか。

これについては、男性の性染色体であるY染色体に注目して分析した結果、やはり、アフリカの男性にたどりついたと言われています。

この学説が立てられたのは十数年前のことで、現段階ではまだ仮説です。しかし、人類の起源を研究している人たちの間で「ミトコンドリア・イヴ仮説」として大きな注目を集めています。

ミトコンドリアが人類の祖先を探求するキーになったということですが、2005年になって別の重要な問題解決の糸口ともなりかけています。

エイズの歴史を通じて、たびたびエイズウイルス(HIV)にさらされながら感染を免れてきた少数の幸運な人たちが存在します。現在、研究者たちは進化の過程を遡り、なぜ一部の人だけがHIVに抵抗力を持つのかを解明しようとしています。

2005年1月に新たに発表された研究で、エイズ免疫の起源は何世紀も前(つまり、この病気そのものが登場するはるか以前)にまで遡るとの説が示されました。HIVに身体を乗っ取られてしまうかどうかは、われわれの遺伝子に刻まれた人種的な系譜や、はるか昔の祖先の病歴が重要な役割を果たしているというのです。

今のところ、この研究成果は最先端の治療薬の開発につながる、というレベルまでは至っていません。しかし今後、一部の人がHIVに感染しない理由に関する研究が進めば、逆に感染者の治療にも有効に使われる可能性があります。感染の防止に役立つ遺伝子が特定できれば、治療のタイミングや強弱を決めるにあたっても、より洗練された手法がとれるようになるからです。

遺伝的特性によるエイズへの耐性の働く仕組みはさまざまで、耐性を持つ人種グループも多岐にわたります。最も強力な耐性は、遺伝子の欠損によってもたらされるもので、この特性を持つのはヨーロッパ、あるいは中央アジア系の人々に限られています。北欧に祖先を持つ人のうち、およそ1%はエイズ感染に免疫を持つと推定されており、なかでもスウェーデン人はしっかり守られている可能性が高いといいます。スカンジナビアで生まれた遺伝的変異が、バイキングたちによって南に運ばれたという説もあります。

最も高いレベルのHIV免疫を持つ人には、1対の変異遺伝子を持っているという共通点があります。この遺伝子があると、免疫細胞はエイズウイルスを侵入させる「受容体」を生成しません。この受容体がないと、HIVは細胞に入り込めないのです。

この免疫を持つには、両親からそれぞれにこの遺伝子を受け継ぐ必要があります。どちらかの親からのみ変異遺伝子を受け継いだ場合にも、普通の人よりはHIVに対する高い耐性を示しますが、免疫ができるわけではありません。北欧出身の人たちの中では10~15%が、こうした、やや弱い形の耐性を持つと言われています。

遺伝的変異が起きてからの期間を推定する手法を使って計算したところ、この変異は中世に遡ることが判明しました。母親から受け継がれるミトコンドリアDNAを使った研究により、現在のヨーロッパ人はすべて、氷河期に生きていた7人の女性の子孫だという説が出ています。

この7人の女性の母親こそ、ミトコンドリア・イヴだというのです。
(関連文献『イヴの7人の娘たち』 ブライアン・サイクス著 ソニー・マガジンズ刊)

「ミトコンドリア・イヴ仮説」の基となったミトコンドリアDNAが、エイズに対抗する医学治療において、歴史的な意味を持つ可能性もあるのです。

by Hotwired Japan

投稿者 messiah : 2005年08月04日 08:41

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