« ブラウザの世界シェア Firefoxが10%近くまで上げる | HOME | ハインリッヒの法則 バードの法則 割れ窓理論 »

2006年01月17日

ある人事の失敗がもたらしたイノベーションのジレンマ

レイ・オジー
マイクロソフト・最高技術責任者
レイ・オジー氏(経歴はこちら
中島聡氏がZDNet Japanの特集コラムで、ソフトウェアの巨人・マイクロソフト社が犯した過ちについて分析し、興味深い逸話を紹介しています。

彼は1986年にマイクロソフト社(日本法人)に入社して、1989年からは米本社でWindows95の開発に携わり、その後Internet Explorerのバージョン3.0、4.0、Windows98で主任設計者を務めた人です。(現在はソフトウェア開発会社UIEvolution最高経営責任者)

マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長は昨年10/30、幹部社員と直属の部下および上級エンジニアに向けて「われわれは自分たちのビジネスをつくり変えて行かなくてはならない」というメールを発信しました。

2005年で設立30年を迎えたマイクロソフト社は、その30年の歴史の中で、経営陣が「会社全体の方向を大きく変えよう」というメッセージ(メモ)を発信したことが2度あります。

それは1995年の12月にビル・ゲイツ氏が書いた「Internal Tidal Wave(内からの大きな高まり)」と、その10年後の2005年10月にレイ・オジー氏が書いた「The Internet Services Disruption(インターネットサービスの破壊力)」です。

どちらも「これからはインターネットサービスの時代であり、マイクロソフトは変わらなければならない」と述べており、本質的には同じ方向性を示しているのですが、今回のレイ・オジー氏のメモに書かれているインターネットサービス・ビジネスへのシフトの重要性という考えにしても、discover>learn>try>buy>recommend(発見して、知って、試して、買って、人に勧める)というサイクルの重要性にしても、決して新しい考え方ではなく、1990年代の後半から社内外の様々な人たちが指摘し続けて来たことだと、中島氏は言います。

「では、なぜ今の段階になって、それも敢えて外様のオジー氏をCTO(最高技術責任者)という地位に置いて、このメモを書かせなければならなかったのだろうか?」

「別の言い方をすれば、マイクロソフトは何故、外部から新しい指導者を導き入れなければならないような会社になってしまったのだろうか?」

「どの時点で、マイクロソフトは道を誤ってしまったのだろうか?」

。。。中島氏の分析が始まります。そして、出てきた結論は次のような衝撃的なものでした。

「この点に関して、私も含めたシアトル近郊に住む元Microsofteeの解釈は、おおむね一致している」

「ビル・ゲイツが犯した最大の過ちは、Internet Explorer(IE)が大成功を収めた時点で、ブラッド・シルバーバーグ(Brad Silverberg)の『OSビジネスはジム・オールチン(Jim Allchin)に任せて私にMSNとIEを任せて欲しい』というリクエストを拒否し、IEチームをオールチンの配下に置いたことにある」と中島氏は言います。

IEとWindows95を大成功に導いた一番の立役者であったシルバーバーグ氏は、「IEで勝ち取った圧倒的なブラウザのシェアをテコにして、MSNをインターネット・サービスの覇者にしよう」という戦略を提案したのですが、ビル・ゲイツ氏は「莫大な利益を生み出しているWindowsビジネスを守る防具としてIEを利用したい」というオールチン氏の願いを聞き入れてしまったのです。

<それが運命の分かれ道か?>

そんなビル・ゲイツ氏に失望したシルバーバーグ氏は引退を決め、それに続くように(Ben Slivka、John Ludwig、Adam Bosworth、Mike Tougonhiなど)マイクロソフトのインターネット戦略を担ってきた「インターネット急進派」のリーダー達がそろってマイクロソフト社を去ってしまいます。

その結果、マイクロソフト社はオールチン氏を筆頭とした「Windowsビジネス擁護派」が主要なポジションを占める保守的な会社になってしまった、と言います。

そして、1995年という比較的早い時点で「インターネットには、OSをコモディティ化(付加価値のないものにしてしまう)するプラットフォームとなる可能性がある」ことを予測し、IE3.0および4.0のワンツーパンチでネットスケープからブラウザのマーケットシェアを奪っておきながら、それを全く有効に利用できずに、一番おいしいところをグーグルに持っていかれてしまった最大の原因はこの”人事の失敗”にあると言及しています。

「この危機的な状態を脱するには、中途半端な人事異動や組織替えでは不十分であることをやっと認識したビル・ゲイツが、機能不全に陥ったマイクロソフト社にカンフル剤として持ち込んだ薬が、レイ・オジー氏のCTOへの抜擢、そして今回の(ゲイツでなく)オジーによって書かれたメモなのである」

「こういったバックグラウンドを理解した上でオジーのメモを読めば、マイクロソフト社がいかに追い詰められているか、毎年何千億円という利益を生み出すWindowsとOfficeという2つのビジネスを擁護しつつ、同時にそれをコモディティ化する力を持つインターネットサービスで成功を収めようということがどのくらい困難なことか、が見えてくると思う。まさに、イノベーションのジレンマである」

イノベーションのジレンマ

「自分の成功体験に埋没することが、やがて自分の首を締めることになる」という相反する矛盾はどの世界にもありますが、今、ソフトウェアの巨人はそのジレンマの中でもがいている。

マイクロソフトの社内実情に詳しい中島氏の分析では、”ある人事”が大きなターニングポイントになったということです。(これが、バニシングポイントとならないように祈りたい)

そういう背景を踏まえて、レイ・オジー氏が発信した「メモ(日本語版)」を読んでみるのもいいでしょう。

q.f. ZDNet Japan

投稿者 messiah : 2006年01月17日 08:54

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://go1by1.com/mt/cgi-bin/mt-tb.cgi/447

コメント

コメントしてください




保存しますか?


▲TOP   ■HOME