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2006年07月27日

“生みの親”のジレンマ その理想と現実のギャップ

インターネットを創った男 その小史(7/26付エントリー)の続きです。

よく巷では、「〇〇の生みの親」といった表現が使われます。ネットで検索するとこんなのがありました。

社会に影響を与えた、あるいは万人から認知されるようになった物・サービス・概念の創造に、特に際立って貢献した人物を指す時に使われる言葉です。

ティム・バーナーズ・リーが、「インターネットの生みの親」と言っても、彼一人でインターネットを創造したわけではありません。それが誕生し、認知され、普及し、発展していく過程で、数多くの研究者や民間の協力があったはずです。

にも関らず、彼を「インターネットの生みの親」と呼んで誰も異議を申し出ないのは、最も根幹となる部分をほぼ一人で考え、行ったからです。

インターネットの骨組みを設計し、具体的な通信方法を考案し、プロトコル(HTMLやHTTP)を定めた、そしてWWWという言葉まで自分で創ったのですから...

これはもう、誰からも尊崇される堂々たる“生みの親”でしょう。

彼は現在、米国マサチューセッツ大学のコンピュータ科学研究所で、World Wide Web Consortium(W3C)のディレクターを務めています。

そして、「現在のウェブはもっと進化しなければいけない」と提唱するようになりました。その方向の先にあるのが「セマンティックウェブ」という概念です。

現在のWebページはHTMLなどを用いて記述されており、ページやその中に記された個々の情報について、それが何を意味するのかコンピュータが自動的に検知する術がほとんど無く、情報の検索や活用がごく原始的・単純なレベルに留まっている。セマンティックウェブでは、情報を記述する際に必ずそれが何を意味するかを表すデータを付与することで、より複雑で精度の高い検索を可能にしたり、特定の種類の情報を収集して活用することができるようになる。

ティム・バーナーズ・リーは7/18、米国人工知能学会(AAAI)が主催する会議で基調講演を行い、人工知能とセマンティックウェブについて語りました。

講演の中で彼は、ウェブの次の段階はデータを人工知能にもアクセス可能にし、検索・分析させることだと指摘しました。

さらに彼は、マシンが簡単に読み取れるデータが互いにリンク付けされたウェブであるセマンティックウェブに言及し、これが導入されれば、さらに多くの知識が、元の情報を作成・公開した人たちとは別の人や組織に、当初は予想もしなかったような用途で使われると説明しました。

彼は、情報の特定に永続的なURI(Uniform Resource Identifier)とRDF(Resource Description Framework)を使うことの重要性を強調し、こういった仕様を一貫して使用すれば、セマンティックウェブは、World Wide Webが本来目指していた知識の共有を促す性質を保持できるだろうと述べました。

熱弁をふるったわけです。

しかし、講演の終わりになって突然場の流れが変わります。

検索エンジン最大手のGoogleの検索部門のディレクターが、質疑応答の時間になると率先してマイクを持ち、いくつかの問題点を提起します。

「わたしはこれまで『なぜセマンティックウェブに反対するのか』という質問をたくさん受けた。わたしはセマンティックウェブそのものに反対してはいない。だが、Googleから見ると克服しなければならない問題がいくつかある。その第1点は、(一般ユーザーの)能力不足だ」と話し始めます。

「わたしたちは、サーバーの設定やHTMLの記述ができないウェブマスターを何百万人も相手にしている。あなたの言う次の段階に進むのは、彼らにとって難しいだろう。2番目の問題は競争だ。商用プロバイダーの中には「リーダーはわれわれなのになぜ標準化する必要があるのだ」と主張する会社もある。3番目の問題は偽装だ。サイトを検索結果の上位に表示されるよう偽装し、ほかの物を探している人たちにバイアグラを売りつけようと企む人たちの対処に、わたしたちは毎日追われている。セマンティックウェブの導入により人の目が届かない部分が増えると、かえって偽装が簡単になるのではという心配がある」と問題提起したのです。

Googleの言うことはもっともだし、これが本音でしょう。

これに対してティム・バーナーズ・リーは次のように回答しました。

「作成者がデータを保持するのならそれでもいいが、そこに誰かが現れて『われわれのエンタープライズシステムをご利用いただければ、あなたのデータをすべてRDFに変換します。われわれは最良のデータベースを持っているからこそ、このようなお願いをするのです』と申し出てくる。この話に乗る方がはるかにデータを活用できる」

彼はさらに、自らの姿勢を明らかにするために書店を例に挙げ、当初、在庫と仕入価格の情報を非公開にしていた書店も、他の書店が公開するとみな同じように公開し始めたと説明しました。

彼は、インターネット上の偽装を問題視するGoogleディレクターの意見に同調したが、セマンティックウェブの概念には、情報の中身だけではなく、その作成者を特定し、なぜその情報が信頼に値するのかを判断できる仕様も含まれていると主張したとのことです。

しかし、このやりとりからは、理想と現実の間の大きな隔たりを感じます。例え、生みの親といえども、指導するだけでは、この世界を動かすことは困難な気がします。

そうなると“育ての親”が出てこないといけないのかも知れませんが、誰が育てたのか?それが問題で、強いて言えば現在のWeb2.0的と言われる企業全てかも知れない。

そうだとすると、もう、この世界は生みの親の意図とは別に、(コックリさんではないが)いろんな企業の思惑が1点(最適なビジネスモデルの追求)に集まって、予想もできない方向に進んでいくように思います。

q.f. CNET Japan

投稿者 messiah : 2006年07月27日 08:25

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